第一二五章 千佳だけに、明るいお空は春近しの合図。

第八八一回 帰り道の寄りたい場所。あの日と同じに。


 ――それは、プラネタリウム。この日もまた、あの日と同じ。



 三人一緒。可奈かなは言っていた。今年も三人一緒に行きたいと。その約束を果たしたいがために、僕らは帰り道にここを訪れた。中央図書館のその奥へ。その中にあるの、プラネタリウムは……暗く丸い天井に映し出されるお星様の数々。その切なさは胸に残るの。


 昔……

 遠い昔、幼き日。行ったことあるよ、この場所。


 学校の課外授業とも言うべき、遠足の日。小学四年生の時だった。この時ばかりは皆が皆、夢中になっていた、今思えば。この日はなかった。いじめは……なかった。


 淡々と説明するナレーター。女の人。


 人工だけど、輝く星座。そのシチュエーションがいつも切なくする。僕は眠ることはないけど、梨花りかは眠っていた。開始から三分で……それでもって可奈は、呆れた様子で、


「まっ、もう慣れたけど」と、囁くように言葉を放った。


「逆に起きてたら、何か変だしね」と、僕は言った……


 梨花の寝息に安心感を覚えた。なので二人で見る……天井に輝くお星様たちを。プラネタリウムの時間は、とても儚い。季節の移り変わりは、とても迅速なものだった。


 迅速なだけに儚い時間。


 自然のお空にはない四季の流れ。朝の来ない場所。明るくなるころには、もう終わっている。四季の星座は、淡々とする説明と共に、寂しさを覚える程に刻まれる。説明は未だに覚えられないけど、この時のシチュエーションは、深く印象を与えて……蘇らせた潜在していた記憶。小学四年生の時の映像。重なる記憶は、小雪のように積もる。


 募る思いは想い出という形となり、小学四年生に見た記憶は、きっと残る。残っているから、涙を誘われそうになる。ならば小学四年生の時は、僕は何をしていたのか?


 赤い記憶。まずはそこから。


「赤は当時のトレーナーの色。そして薔薇の色。それからポジティブな思想を放つ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る