第八七二回 そこは入口、まだ入り口だよ。


 ――大人になったつもりが、まだ入口に過ぎなかったことに気付く、今この時。



 流れる水の音。太郎君は夢中……と言っていた。僕に夢中と……


 それは、僕が女の子で良かったと、心から思えた時。男の子とは違う女の子の裸体。違うからこそ夢中になれるのかもしれない。そんな中で「クッシュン……」と、僕のクシャミの音が混ざって、太郎たろう君は慌てたような表情に声も「入ろう入ろう」と湯の中。


 浴槽の湯の中へ共に入る。


 以前よりも狭くなったような気がして、浴槽の中……体と体が密着しているの。


「太郎君、その……」


千佳ちかが思ったより柔らかいから、胸も……」


 入口を初めて意識した。大人の入口。今まで、こんなことはなかったの。とても熱いものが押し寄せて? 押し上げてくるような、お腹の底から、息も途切れて、抑えられそうにない声だって? どんな声? 只々、太郎君の表情が物語る、一生懸命に僕を求めている。僕は身を寄せる、どんな顔をしていたのか、どんな顔でも、僕の顔、全部が全部。


 近い距離。そして時間を忘れ、何時までも……


 浴槽から、浴室から場所を変えても、僕らは求め合った。生まれたままの姿で、全裸のままで、裸のままで、寒さを忘れる程に、その真逆の熱さ。抱き合ったまま……


 とても激しかった。まるでこれまでの集大成。


 それでも入口なの、あくまで入口。太郎君は、僕の入口に入ったから。その奥は宇宙ともいえる程に神秘的。女の子は育むの。温かくもその体内で。我が子を守る……


 そこで思うことは、お母さん。


 僕を生んだ時って、こんな感じだった? そう問うの、そっと心の中。温かな涙は、生まれてきたことへの感謝。……そうだ。お母さんは喜んでいたの。パパも同じく。


 だったら、僕らのためだった。十三年間、梨花りかとパパと生き別れていた理由は。涙は止まらなくなった。でも、嬉しさが込み上げるの。それが、大人の入口だったから。



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