第一二三章 つづくハネムーンの予行練習。

第八七一回 それはまた、新婚のようなの。


 ――初めてのことではないの。



 でも違うの。……自覚や、意識をしてしまったら。


 それは大人? もう子供ではない男女という自覚。だから、子供の頃みたいにいかないの。それはいつからか? 少なくとも、ハネムーンという単語が芽生えた時から……


 僕の中で。僕の脳内で広がるから。


 君の言った、その『ハネムーン』という単語によって。


 この硝子戸の向こうに君はいる。落ちる水滴の音。感じる湯気の温度。そして、いくら室内とはいえ寒いはずなのに、ポカポカと温かい体内からの熱気。梨花りかがコーディネートしてくれた下着は、ある意味のちの勝負としてリュックに保管しておいていたから、まだ機会はあるので……って、そうじゃなくて、今はもう全裸。ガラッと開ける硝子戸で、


「お背中、流しにきました」

 って、古式ゆかしい女性を演じるように……


 振り向く太郎たろう君。もちろん太郎君も全裸……だから、その表情はもう。更に「千佳ちか、水着とかじゃないんだな」と言うものだから。火照る顔から湯気が出そうな程になって、


「当たり前でしょ、お風呂なんだから」

 という言葉が精一杯で、とにかく次へ進もうと、スポンジをワシワシ音を立て……


「僕の裸見るの、初めてじゃないんだし。何回も。で、でも、男の子って、こんなにゴツゴツしてるものなの? それに、何か前よりも広くなったね、背中も」


 もう太郎君は背面を向けた。そして、背中で語る? 男は背中で語るという感じで、


「千佳も、また成長したのか? 何というか、その……エッチというか、女っぽくというのか……上手く言えないけど、何だか、何だかな」と、言葉が続かない様子。なので、


「だったら、もっと。背中だけじゃなく洗いっこ」


 と、太郎君の前に立つ。全部見えちゃう位置だけど……「隅から隅々まで見て」と、恥ずかし過ぎもするけれど、「いいのか? 忘れられなくなるぞ」と、太郎君は言った。



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