第八七〇回 家庭科の時間はハネムーンで。


 ――思えば、それは学校で教わることのない、もう一つの家庭科の時間。



 僕の料理は、実戦で磨いたもの。ボッチだった頃の……僅かなる食材で、作っていたのが現実だった。その頃のお母さんは多忙極まる、お仕事の。超が付くほど生活難だった。


 お家に帰れば、僕一人……

 お母さんも食していたと思うの、僕が眠っている間の夜が深まる頃……


 その頃のことが脳裏に過っても、今は一緒に食してくれる君がいる。あの頃とは異なるカラー。君は笑顔で食し、弾む会話もセット。温かで明るいカラーになっていた。


 それがこの先の、僕らの未来のカラーでありたいと、


 胸を躍らせて……カタカタと今日もまた執筆する、この場を借りても僕のエッセイ。荷物の中にはノートパソコンも仕込ませてあった。黄色のノートパソコン。太郎たろう君も見守るどころか、ある意味では参加のような趣で……「千佳ちかだけに千回とは思うけど、ずっと続けて欲しいな、千のストーリーを迎えてからも、ウメチカ。俺、応援するからな」


 と、その台詞も込みで。込み上がる喜びも込々で。


「なら、僕らが結婚して、子供ができてからもずっと……」


「そうだ。俺は思うに育むことが、ウメチカのテーマとも思えるから」


 それは多分、太郎君に言われるまで気付かなかったこと。そして何よりも「楽しみにしてるから」とも添える言葉。何よりも心温まる言葉だった。この夜も深まる……


 もう少しだけ深まって、


「さっ、あなた、お風呂湧いたわよ」と、声にしたのは僕だけど、


「何だ何だ? 急に女っぽい言葉遣いになって」と、太郎君が言うも、実はその反応を期待していて……「だって僕、女だから」との台詞を、言える機会を作ったのだから。


「一緒に入るのか?」と、太郎君が言うも、


「先に入ってて。お背中、流しに行くから」と、少々ぎこちない僕の、言葉……


「それもまたいいな。大人というか、ハネムーンって感じで。いい感じだ、千佳」



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