第一二一章 拍手喝采の祝福の日に。

第八六一回 紙一重な程に近い距離。


 ――バッドもハッピーも。それが今日という日のスタートライン。



 霧雨の道を歩む三人。並んで歩むその様は、まるで行進。だったら似合うものはマーチングソング。真ん中に僕。右に梨花りかで左に可奈かな。傘をさす人が九割以上に思えて……


 周りの影響で、僕らも傘をさす。


 青、黄、赤……三人並ぶと信号機のように。歩く信号機。聖者の行進のように。


 やがて教室。そこには、いつもと変わらない光景。いつもと変わらないはずだけど、今の僕には唯一人、その男子生徒しか見えていなかった。その男子生徒は、太郎たろう君……


 前に立つ。太郎君の視野のど真ん中に。僕は、込み上がる感情の中で、


「太郎君、ごめんね」


千佳ちか、ごめんな」


 と、重なる言葉。どちらも頭を下げていた。「えっ?」と、まるで確かめるように、お互いが顔を上げる。呼吸もピッタリに。呆気にとられる表情、お互いに見合わせたの。


「僕はいつも我儘ばかりだったね。太郎君のこと、何でも知ってるつもりで調子に乗ってた。太郎君が優しくしてくれるから、甘えてばかりだったね。ごめんね、本当に……」


「千佳の我儘も含めて、俺は千佳が大好きだ。この間の松近まつちか君のことで、千佳が離れていくような気がして……俺は怖かったんだ。俺のそばにいて欲しい。ずっと一緒に……」


 溢れる涙。僕はギュッと抱きつく、太郎君に。


 抱き留めてくれる太郎君。冷たい霧雨だったことも忘れる程に温かく……


 ここが教室であることも、皆が見ている前であることも忘れ、しかも真ん中で。それが拍手に変わって「おめでとう」という言葉も聞こえて、まるで祝福と化した。


 クラスの皆が応援してくれていた。


 その中に、僕とライバル関係を築いていた美千留みちる天気てんきちゃんも含まれていた。梨花と可奈は「千佳、ハッピーバレンタイン」と声を掛けて、チョコのプレゼント。三人で作ったチョコを太郎君にプレゼントした。この度は土星の形をしたビッグなチョコだ。



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