第八五八回 その前にだね、二月十四日といえば。


 ――バレンタインデー。同じ月の二十二日の前にあるの。



 まあ、当たり前だけど……

 思えば、太郎たろう君は人気がある。僕だけでゃなく、多くの女の子にチョコ貰って……


 昨年は手作り。梨花りかとお母さんが手伝てくれた。それも、超特大なチョコだった。ビッグなハート。周りの女の子たちの度肝を抜いたの。大きさは僕がナンバーワンだ。


 太郎君にチョコ渡したのは、梨花はわかる。僕と同じ意中の子だったから。それ以外に可奈かなも。せつだって。ええっと……これだけでも四角関係は成り立つけど、これをも上回る太郎君の人気。ちょっとちょっと、リュックいっぱいになったじゃない。


 しょうさんもシャルロットさんも、その中に含まれ……葉月はづきちゃんまでも。ならば、怜央れお君の人気も密かに、太郎君といい勝負だそうだ。って、これは何の競争?


 忘れてはいけないのは美千留みちる天気てんきちゃん。この二人は手を組んで、僕に対抗して手作り。大きさは僕の方がダントツトップだったけど、手作りでくるとは、強敵感を僕に与えた。今年もまた挑んできそうだ。って、何で僕に挑んでくるの? それがこの言葉……


「もうすぐね、バレンタイン。また手作りで勝負よ、千佳ちか

 って、目から火花バチバチ。何でこうなるの? と思いつつも、


「臨むところだよ。僕のハートはビッグだからね、もっと」

 とか言ってしまったの。これではまるで『勝負したるねん』って感じじゃない。


 そんなわけで、


 僕は帰り道に、スーパーで材料集めに精を出すことになった。するとそこには、梨花がいて可奈も一緒にバッタリと鉢合わせ。気付いてないようだから、このまま見て見ぬふりを思うも一瞬……でも、気付かれたの。「千佳、先に帰ってたんじゃなかったの?」

 と、いかにも見え透いた台詞。知っていて言っている顔。


「チョコの材料、買いに寄ったの」と、自分でもわかる程、小さな声だった。


「まっ、喧嘩する程いい仲だって言うしね」と、梨花はクスリと笑っていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る