第八五三回 恵方と鬼は外福は内。


 ――豆をまく行事。この空間では毎年恒例に行われているという……謎の空間。



 それがここ、職員室と校長室の境の場所にある、お部屋。完全密室になるのも可能だそうだ。それ程までに、極秘裏にする理由とは何か? 何かありそうな空気が満載。


 あくまで、そんな気がしただけで……


 実際のところは、何故に僕の隣に今、太郎たろう君がいるの? 同じソファーに座って。そして囲むように、松近まつちか……さんに八神やがみさん、千歳ちとせちゃんがいる。本当に静かな場所。同じ学園内とは思えない程の別世界観を感じる。お部屋の作りは、何だか洋風? いやいや洋風になりたての和室ともいえる。明治維新? 或いは幕末を思わせるようなお部屋。


「この部屋はオーダーメイドなんだ、僕の好みに合わせて」


 と、松近さんは言葉を添える。そして、その由来を加え、


「明治維新を強調としています。革命の意味を含め。何しろ私たちは、この学園をモデルケースとして、この都市全体の学校を取り締まっているのですから……」


 と、何やら重要なお話のよう。八神さんの口調が物語る。


 八神さんもまた眼鏡を掛けている。松近さんと二人して、真面目っこを超越したような存在に。この喩えでいいのかはわからないけれど、僕にはその様な表現に思えた。


「まっ、今日は兎も角お二人さんを呼んだのは親睦というものを深めようと、松近さんが言っていたから。用意してるよ、恵方巻。今年は南南東の方角に向かうのと、豆をまく行事をするの。そのために太郎さんを呼んだんだよ。僕らは女の子が二人で、男の子は松近さんだけだから。毎年恒例のこの行事は、元々が男の子の節句なものだから……」


 と言いつつ、松近さんの方を見る千歳ちゃん。「だよね?」と、訊きながらも。


 僕はふと思う……


 太郎君は兎も角、どうして女の子の僕が呼ばれたの? 僕は千歳ちゃんと同じ一人称が僕だけど、千歳ちゃんと同じ女の子。……ここでの、僕の存在理由とは? 何なの?


千佳ちかさんは、僕が用事があったから」と、松近さんは言った。そのタイミングで。



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