第八五二回 開かずの扉は二つも。


 ――これまでに出会った数だ。開かずの扉……だったドア。つまりは二か所目。



 第一は、芸術棟のアトリエのドア。


 第二は、ここ。職員室と校長室の境の場所にあるドア。


 もしかしたら、まだあるのかもしれない。まだ僕の知らない開かずの扉が。喩えるならば、千歳ちとせちゃんが住んでいる芸術棟の地下室。それもまた開かずの扉だったのかもしれないの。僕が認識した時にはもう、そこには千歳ちゃんと菜花なのかちゃん、それに……


一奈ひとなだよ。僕と菜花の妹。四月になったら、この学園に入学するんだ」

 

と、千歳ちゃんはウキウキした様子だ。眼鏡の男の子も一緒になって。


 ここは、その境の場所。職員室と校長室の境の場所にあるドアから、招かれて入室したお部屋だ。学園内とは思えないような応接室。まるで何処かの企業の社長室のような趣。


 男の子は、まるで小公子のような、その様な風格を感じる。


 名乗る。ついに男の子は名乗るの、自ら先に名乗ろうとしたその時だ。ドアが開く、勝手に独りでに。自動扉? そんなわけもなく、人の手によって開けられたの……


「連れてきました、松近まつちかさん」


 と、少女の姿が。名札を見ると八神やがみと表示。中等部二年生。だとすれば、その松近という男の子を、さん付けで呼ぶということは、彼よりも下級生。僕よりも年下……


 なら、松近という男の子は僕と同じ学年か、或いは中等部三年生ということになる。そう思考を重ねていると……「おっ、千佳ちかじゃないか」と、馴染みのある声というより、お馴染みの声ともいえるレベル。見事なる顔合わせで、


太郎たろう君」


 ……だったの。「どうしてここに?」と、僕も太郎君も呼吸もピッタリに同じ質問。


 するとクスッと笑う太郎君。「えっ、何々?」と、僕は思わず問う。


「ウメチカにマツチカ……ごめんだけど、個人的に面白くてな」と言いつつ、堪える笑いを。でも、僕もまたクスッとなった。連鎖する笑い。笑う門には福来るとなろうとも。



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