第一一六章 そして、ウメチカの向こうには。

第八三六回 生まれて初めてのウェートレス。


 ――思えば、売り子を経験したことがある。高額チケットの売り子。



 梨花りかとの出会いは、まさにそれが原因だった。僕と間違えられて、梨花は警察に補導された。本当は、それが生まれて初めてのアルバイトだったけど、カウントはしていない。


 黒歴史……

 とも思える内容だけど、そこから未来に繋がる物語が始まったのだ。


 なら、それはゼロカウント。今からワンカウントとなってゆく。歩みは始まる。太郎たろう君と一緒。現地。到着した場所は御堂筋。雨とは対照的な、今日の快晴。


 同じアルバイトでも、全然異なるアルバイト。正しきアルバイトだ。


 胸を張って挑む。後ろめたいことなど何もないから。そこは聖地で、しょうさんのように誇りを持てる仕事だ。太郎君も同じ。僕も仲間入りを果たすため、着替える。制服という武装をし、社会に貢献する。お客様の弾む笑顔を、この店内いっぱいに咲かそうと。


 軽やかな足取りのように、

 重厚感を与えないように、


 だからこその狙いなのだろうか? このコスチューム。ラーメン屋さんとは思えないような『来夢来人らいむらいと』という店の名前。まるで喫茶店のような、まるでメイドさんのような制服……って以前、翔さんがお客様に注文を取っていた時とは異なる衣装……いやいや衣装じゃなくて制服。それを見た翔さん。袖を通して着替えた、今の僕の姿……


「か、可愛い! やっぱ似合うと思ってたんだわ」


 と、キラキラ輝く瞳で、翔さんはまるで乙女のように……って乙女だけど、とにかく感激したような趣で「ほらほら」と、僕の手を引っ張って、お客様の前とか太郎君や店主とかに見せて回って「どうだ、この店の看板娘に」と、紹介までしてくれたの。


 それでそれであっと言う間に、千佳ちかという名前も浸透してしまって、一時的なアルバイトなのに、颯爽と注文を取って回る。初めは太郎君と一緒に。太郎君は……ごく普通な制服。いかにも喫茶店のウェーターというような感じ。時期に慣れてくる。色んな意味で。



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