第八三五回 ある晴れた土曜日の昼下がりに。


 ――何処へ向かうのか? 遠い電車に乗って。



 車窓から見えるものは、流れる景色。あの日あの時から随分と、見える景色は変わっていた。雨雲のお空も今は、快晴のお空。すっかり心に虹は宿っていた。


 片道切符ではなく……

 僕には帰れる場所がある。そこには友も、そして道連れも。共に歩む道連れ……


 この先にいるのだ。


 もう少し歩むことによって、とある場所。ウトウトするその先にも。そして隣に現れたのだ。道連れという名の旅のお供。その人は僕のパートナー。久しぶりとなる……


「お目覚めかな、お姫様」


太郎たろう君、いつからいたの?」


 同じ電車内にいた。お互いメールでやり取りしていた。メールには『みーつけた』というところで途切れていた。つまり電車内で鬼ごっこならぬ……そんな感じの御遊び。


「ここでキスしちゃ駄目だよ? 白雪姫じゃないし」


「まあ、周りに人も多いしな。まるで平日並み? この混み具合」


 そうなの、今の社会情勢は。


 長いコロナ禍で、どの企業も人手不足で逼迫している。しょうさんのラーメン屋さんでも今は大変な状況。お客様も通常の三倍に膨れているという。実は実は実は、僕らはその応援を頼まれたの。なので現地集合だ。僕らだけではないの。有志ある者その場に集う。


 私鉄沿線から……

 御堂筋に乗り換えるルート。


 生まれて初めてのアルバイトなの。太郎君は以前から、夏休みの間から、そこでアルバイトに勤しんでいた。僕は、太郎君からお願いされたの。ウェートレスの役回りを。


 太郎君が、僕に助けを求めた。それは昨日のことなの。


 そっとメールで。声の裏側にある言葉で綴られた内容。



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