第一一三章 夕映えに、風鈴の音色が懐かしく。

第八一七回 たまにはいいよね? こういうの。


 ――それはバルコニーとお部屋を仕切るガラス戸。奏でる風鈴の風情飾る調べ。



 その優しい調べは、そっと僕の脳内に、想い出として刻まれる。……梨花りかと横並び。バンプラを仲良く作る。思えば夏休みの自由研究。もしも小学生の頃に梨花と再会できていたなら。いやいや初めから、梨花と双子の姉妹として同じ暮らしをしていたのなら、今の光景は、毎年ずっと繰り返されていたのかもしれない。……二人仲良く図画工作。


 その前に可奈かながいる。

 僕らの目の当たりに、バンプラ作成中の机の向かい側に、可奈がいたのだ。


 僕が梨花と再会してから、

 三人は一緒。いつも一緒。芭蕉さんと初めて会った時も、三人一緒だった。


「それにしても千佳ちか、しっかり日焼けしたね」


 と、可奈は言う。これで何度目? 梨花とは鏡を見るように、激似どころか瓜二つというレベルだけれど、これもまたお約束で……「これで解り易くなったね、梨花と千佳」という具合に、見た目もハッキリと。どう見ても日焼けしている方が僕ってことじゃない。


 わざわざ横並びにして、その違いを比較。


 それは多分、新学期まで維持なのか? ではないのだ。もちろん道連れだ。例えばこのように……「可奈、今度は連れてってくれるよね? 僕らが芭蕉ばしょうさんと出会う前に行こうとしてた所。二〇二五年を飾るテーマパークのプールへ」と、三年越しとなるお約束に。


「そ、そんな約束してたっけ?」と、可奈の目は泳ぐ。


 癖もあの時と同じ。都合が悪くなると、このように逃げようとするのも、あの時と同じだ。なので逃げられないようにと……「してたよ、可奈。今度こそお願いね」と、僕の台詞を梨花に盗られたのだ。ちょっとちょっと、いつもいいとこばかり。


 ……とは思っても、貫録が違うの。僕もそうだけど、可奈もまた「……はい、わかりました」と声も小さく、渋々「あの、一緒に地図で場所を探してほしいの、お願い」と、少し涙目で言った。それ程までに梨花の迫力は、相当なものと思われる。



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