第八一五回 日向ぼっこで思う事。


 ――ビーチパラソルは備え付け? でも、初めからあったものなの?



 ちょっとした避暑地。その中に於いて思う、素朴な疑問。するとだ、スーッとその身を現した芭蕉ばしょうさん。並んで座る僕らの前にいた。ビーチパラソルの下、向かい合わせで。


「どうじゃの、千佳ちかちゃん。気に入ってくれたかい?」


 と、訊いてくるの。教科書に載っている絵のようなお方だったと、太郎たろう君にアイコンタクト……しっかり見る。目の当たりいる芭蕉さん……


「うん、とっても。でも不思議ね。

 僕のイメージしていた風景が、こうも悉く出てくるから」


 と、さりげなく訊いてみたの。すると、どお? 芭蕉さんは満面な笑顔で、


「よく気が付いたね、千佳ちゃん。

 実はその通りじゃよ。千佳ちゃんが初めてここを訪れた時から、千佳ちゃんの脳内にあるイメージを具現化したものなんじゃ。……でも、バレたらもう、その役目も終わりじゃの。もう千佳ちゃんは自分の力で歩んで行けるということだから」


 と、語る。きっと思いの丈を言い切るように。……じゃあ、それって、


「やだ、それってお別れってこと?」


 と震える身で、精一杯の言葉。それと共に涙も溢れてきた……


「折角の門出に涙は似合わないよ。何も心配することはない。わしは旧一もとかず少年との……とはいっても少年じゃないな、見た目は少年だったけど。ここを訪れた時のな、彼との約束を果たした。だからわしはもう満足なんじゃよ。わしも千佳ちゃんに会えて楽しかった」


 との言葉を残しつつ、消えたの……


 目の当たりから。サーッと。消えちゃったの……


 込み上げる涙は、とても温かかった。気付けばここは河川敷へと変化していた。大きな川で……初めて梨花りか可奈かなと一緒に訪れた、あの川と同じ風景に、戻っていたの。


 懐かしくも川のせせらぎの中で、そっと優しく太郎君は、肩を抱き寄せていた。



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