第八一三回 細道は開ける秘境も。


 ――続けることが大事。確かに僕は見たの、温泉のその先にプールがあるのを。



 温泉施設から長い距離だから、思っていたよりも。


 もしかしたら幻を見たのかもしれない。見間違いだったかも……と、迷える心も見え隠れしたその時、到着した。最果てという場所。奥の細道の最果ては……まるで海。


 流れるプール?


 と、思うにも、あまりにも自然色が強すぎるの。何故か潮の満ち引き……みたいな動作を繰り返す、水面。川にしては有り得ない動きと、その広さ。水平線が見える程。


 僕もだけれど、太郎たろう君も圧倒されていた。


「あの、芭蕉ばしょうさん、ここは一体?」と、どう訊いてよいのか、言葉に困る始末で。


「君の行きたがっていた場所を具体化したんじゃ。気に入ってくれたかい?」


 ――千佳ちかちゃん。と、僕の名前を呼んでくれた。


「うん! ありがと、芭蕉さん」と、込み上がる感謝の思いから出でる言葉。


「うんうん、よい笑顔じゃ。それに特別に貸し切りだしな。思い存分に縦横無尽に、彼氏と楽しむが良いぞ。愛を育むのもまた結構……」と言いつつ、スーッと消えた芭蕉さん。


 流石に三度……


 もう慣れたと思うけど、やはり暑い夏にはもってこいの、ある意味で瞬間冷却。


 特に太郎君は。目の当たりで消えたのだから、嘸かし嘸かし……良い冷え具合だったと思われる。近頃あまり聞かなくなった怪談話。思えば写真もデジタルになってから、心霊写真という言葉も聞かなく……あっ、これ、お母さんから聞いたお話だから。僕が生まれた時には、もうデジタル・オンリー。銀塩写真はもう見掛けなくなった。で、あるなら素朴な疑問も添えて良いのかな? もしかしたら、残像が原因だったとも思えるの。


 そう思っただけ。実際はどうかわからないから。


 手を握る太郎君。見上げる僕……シルエットになる身長差。太郎君はまた身長が伸びたようだ。僕も少し伸びたと思うけど、もうそろそろ定着する、女の子の僕の身長。



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