第八〇七回 ♪ 来たよ、来た来た来た。


 ――今日も普通に登校経路。私鉄沿線の電車の中は、いつも見る決められた風景。



 僕は車窓から、流れる風景を見ている。


 傍にはスマホを見る梨花りか。そして音楽を聴く可奈かながいる。いつもと同じ……そう思いながらも、時の流れも感じた。この朝のルーティーンも二年となっていた。本当はもうすぐ三年と言いたいところだけれど、コロナ禍の第一波で学園が休校した時期があった。


 そのため……


 思えばウメチカの連載とほぼ同じ時期に、世間はコロナ禍となった。


 僕らのいる場所も例外ではなく現実の中にある。しかしながら、摩訶不思議な展開の連続だった。過去と未来が共存できた物語。辛かった日々も、今はもう……



 だから、見える景色は宝物。


 僕が今、ここに存在していることは、身が震える程に大切なことだ。そう思えた時、見える風景がぼやけてきちゃって、何だか堪らなく込み上げてきちゃって感情が……


千佳ちか、どうしたの?」

 と、梨花が声を掛けてきた。やっぱり涙が零れていたみたいで。


「ちょっと目にゴミが入ったみたい……」


「あっ、擦っちゃダメ、どれどれ見てあげるから。……ちょっと疲れ目かな。執筆も無理してるんじゃない? たまには休息も必要だよ。ほら目薬、じっとして、そうそう」


 ……ン、目の奥から刺激が。

 漲る爽快感。「流石はVロットだね」と、可奈の微笑みも見えた。


 そして開くドア。電車のドアが開く。


 緑の薫りが流れ込むホーム。僕らと同じ制服の子が集う、歩み寄る、知っている子も盛沢山で「おはよ」と飛び交う歓喜な声。僕が夢見た学園の登校風景そのもの。学園も夏休みも、またその先の新学期も、何の隔たりもなく楽しめている。昔のような憂鬱も心を覆うブラックな不安も、もう僕の心から消えている。だから来たと確信する。明るい未来。



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