第一一一章 一のゾロ目。それは真夏の扉を示した。

第八〇五回 夏の扉は、もう真夏の扉に。


 ――高揚する二人を、その扉は誘う。もっと大胆で甘い御遊びに。



 水着を選びに店内に入ると、ヒンヤリとした冷房の風……だったのだけど、僕ら二人の興奮は冷めない様子。想像先走る、海での出来事。まだ入り口に立ったばかりだけど。


「さあ、どうする?」

 と、太郎たろう君が言う前に、僕が言っちゃったの。


 カーッと熱くなるお顔。「千佳ちか、すっかり茹蛸だから、先ずは俺のを選ぼうか」と助け船? 男の子の水着って、シンプルに選べる? 僕には初めてのこと。ただ太郎君が自分で選んだのを「どお?」「いいね」と、相槌を打つだけ。……それだけで太郎君は喜んでいる様子。どれを着ても似合うから、どれも選べちゃうの。手抜きではないの。


 僕は堪り溜まって……


「もう! 太郎君がイケメンだから、僕は『いいね』としか言えないじゃない」


「ほお、イケメンかあ……」


 御満悦な太郎君の表情を見るなり、コツコツ……と足音が聞こえたかと思うと、すぐ後ろに「素敵な彼女ですね。少しばかりコーディネートいいかしら?」と、二十代前半くらいの女性店員が声を掛けてきた。さらに続けて「サービスですから。彼女にピッタリな水着を選んで差し上げますわ。素敵な夏の思い出に……スタイルもいいですから」


 そして選んでもらって、試着へ。試着室の中へ。


「あの、ホントに着替えるんですか?」


「恥ずかしがらなくてもいいのよ。今時は試着するのが普通なんだから」

 と、水着を渡され、その店員さんに。僕は着替える……試着室の中で。


 その内容はオブラートに包むけれど、前から見るとワンピース型。後ろから見るとビキニに見える不思議な水着。……シャーとオープンするカーテン。視線に晒され、お披露目に至る。「やっぱり御似合いですね」と満面な笑みの店員さん。太郎君も……見ているというよりも、じっと見詰めているという表現。恥ずかしいけど、嬉しかったの。



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