第八〇四回 飾るエンディングとは。


 ――讃え合うこと。皆が皆この戦いに夢中だったから。今この時が煌めいている。



 言葉は、そんなにいらなかった。


 今日という日の今この時を、心に刻むことだろう。

 また集える日のことを夢に。一日も早いコロナの収束を願って……



 帰り道は少人数。其々が寄りたい所もあるように、僕と太郎たろう君は二人で一足お先の電車の中。流れる景色は夕映えにはまだ遠く、お昼の青々と茂った夏模様。


 ふと、


 ――泳ぎに行きたい。と、そう思った。



千佳ちか、少し時間はあるか?」と、唐突に太郎君は訊いてきた。


「あるけど……どうしたの?」と、僕は訊く、訊き返してみた。


 深い意味はない。そう思っていると、軽くも壁ドン。……見上げる僕。電車の中では二人立っていたから。それも座席のすぐ横。他の乗客も見ている、視線も感じるの。


「ちょ、太郎君?」


「夏休み、今度こそ泳ぎに行こう二人で。これから水着、一緒に選んであげるから。大泉屋おおいずみやならいい水着あると思うから。きっと千佳に似合うと思うから……」


 僕はフッと息を吐いて、


「なら僕は、太郎君の選んであげる。

 大泉屋なら、きっと太郎君に似合う水着があると思うから……」


 お互い真剣な眼差しだったけど、クスッ……と笑えた。よく考えたら二人とも大泉屋で水着を見に行っていたってことだ。それでもって言うことまで同じで。


「考えることは」「同じってことだね」


 そして僕らは最寄りの駅の一つ前で降りる。――その近くに大泉屋があるからだ。



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