第一一〇章 コーリング! 八〇〇回記念。

第八〇〇回 あなたには、僕がいる。


 ――そうだよ。一人じゃないから。



 垣間見える太郎たろう君の過去。今はまだ思い出という優しい言葉に包む……


 僕と出会う前の君。僕とソックリな子と知り合って君は変わったと、ある時ポツリと話してくれた。それは思い出のお話だから成せること。もしも君が、僕とソックリな子と僕を間違えていなかったら、僕と君は、まだ見知らぬ二人。或いは出会ってなかった。


 だからこその奇跡……


 例えば西から昇った御日様が、東に沈むよりも遥かに至難の業。その確率はロト7を当てて億万長者になるよりも雲泥の差以上に高い難易度だ。それが人の出会いだった。


 ある人が、そう教えてくれた。


 教えてくれたのは、紛れもなく君だった。


 ……

 …………


千佳ちか、願い通りになったようだな」


「……えっ?」


「今までは、俺の我儘に付き合ってくれてありがとな……」


「どうしたの? 急に」


「気付いてやれなかったんだ。千佳が瑞希みずき先生と対戦したがっ

ていたこと。それも三年もの間。思い存分戦えよ、悔いなく。決勝戦を決めるのは、千佳だから」


 見抜かれていた?


 何もかも見抜かれていた。僕が瑞希先生と対戦したいと願って、怜央れお君の敗北を願っていたことを。……それを承知の上で、太郎君は穏やかな顔で僕に声を掛けてくれた。


 でも涙も、この場では野暮というもの。


 それを悟った上で太郎君は、僕の言葉を待つ……「うん!」という元気な返事を。


 煌めく時。夢中でいられるこの時だから、儚くも美しく残る輝く時。



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