第一〇八章 鐘の音と同じく、ある意味では煩悩の章。

第七八八回 でもそれは、とっても大切なことだから。


 ――喩えるなら食欲、睡眠欲、性欲。



 欲ではあるけど、生きていく上で必要なこと。人間だけではなく動物も共通して、生きもの全般に必要不可欠なこと。食欲と睡眠欲は欠かすと命に係わるし、性欲は子孫繁栄のための大切なこと。そして煩悩は欲から始まるけど、実は目標を立てるには必要不可欠。


 成し遂げるという言葉のその前には、

 成し遂げたい。こうしたい。これができたのなら……という単語が飛び交っているの。


 煩悩から目標へと成長を遂げたのもある。日々問い詰めて、高まる一念。どうしても成し遂げるという強き一念と共に成長して確立するの。


 生きることへの執着。

 それこそが究極なの。


 僕は生きようと思った時、その三つの欲が愛おしくなった。


 そして懸命に生きようとするカブトムシの生き様に、涙したことも……ユーチューブを観て、梨花りかがKACで紹介してくれた羽化不全のカブトムシ。拝見して、さっきまで泣いていたの。懸命に生きる生き様。今の僕はもう大丈夫だから。


 そして明日……

 いやいや日付変更線を超えているのだから今日……


 この時からもう、あと何時間かしたら会うことになっている。音楽祭部門で鈴木すずき公生きみお君とデュオを組んでいた女の子。お話する機会があったの。まずお名前からだったね……


 リュウ明峰メイホウ。それが彼女の名前だった。


 訳ありの少女。尋ね人を求めて、ウメチカ戦へ出場した。音楽祭部門が設立されたこの回に。「ワタシニハ、バイオリンシカナイカラ……」と言ったから、ほっとけなかった。


 彼女の求めている尋ね人は、


 ……僕の知っている人だった。生きることへの勇気を、僕に与えてくれた命の恩人だから、決して忘れ得ぬ片時さえも。それは、ティムさんだった。



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