第七八六回 エール!


 ――この思いを今。僕は応援歌に載せて伝えたいと身を震わした。



 流れる曲は激しくも、海のように穏やかに。広大な調べを奏でている。

 いよいよ本番を迎えたの。


 可奈かなとシャルロットさんのデュオと、鈴木すずき公生きみお君と……見知らぬ女の子。年齢は推定だけれど公生君と同い年。だとすれば十三か十四歳くらい。同じ学園の子かは不明だけれども、長い髪の、とても目力のある子。この二グループが演奏するそうだ。


 束の間の、戦士の休息……

 そのように思えつつも、ここでもまた激しきバトルが繰り広げられた。


 ――音楽祭部門。午前十一時開幕。


 どちらも同じ曲を演奏する。課題曲は、課題曲はね……な、なんと、このウメチカ戦のテーマソングだったの。かつて第一回を飾ったウメチカ戦のエンディングで、梨花りかが奏でたラブソング。恋愛、友愛、親子愛、家族愛……まだまだジャンルをも超え、どのジャンルにも当てはまるよう思考が為されているラブソングが、今再び蘇った。


 ピアノとバイオリンの組み合わせ……


 映る大画面越しに演奏される。会場は、この建物内。梅田の地下ウメチカの範囲内。僕らはもちろん駆け出した。駆け出す青春を演出する。それこそが、これから演奏をもって対決する二グループへの、僕らにできる、せめてものエールなの。


 そしてエールを送りたい人は、すべての縁している人。今この時でもお外の世界で、不安定な社会情勢の中でも懸命に、頑張っている人たち。そして僕らを応援して頂いている人たちにも、一日も早い安定と元気を願ってやまずに、応援してあげたいの。


 音楽と同じように、

 エールもまた国境を超える。


 聳え立つ青い山脈を超えるように、世代も超えて、遥か彼方の未来永劫にまで……


 僕がこの物語を通して元気になれたように、縁する人々皆が、元気になれるように。



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