第七七二回 それは、七月十三日。


 ――燃ゆる火曜日から、十三日の水曜日。金曜日ではないのだ。



 しかしながら、それでも十三日。日付変更線を越えた途端に……

 不思議な予感。軋む床の音は忍び寄る足音に似たりで近づく……


 梨花りかはまだ没頭している。今日も皆が手伝ってくれて、皆が帰った後も作業に没頭している。皆が帰った後、僕は梨花と一緒にいる、梨花のお部屋に。組み立てたものを分解してまた組み立てる……仮組っていうのかな? その繰り返しで、精度は高まる。高まる精度は、きっと梨花の求めるイメージに近づいている。それが証拠に梨花の顔が、


 とても楽しそうだから。


 いつも一緒にいる梨花なのに、キュンとくるのは何故だろう? 何かお顔が熱く……


千佳ちか、顔が赤いけど大丈夫?」

 と、こっちを見て、急に訊いてくるものだから、


「はっ、だ、大丈夫。梨花も大丈夫なの? そんなに根詰めて」

 と、ちょっとパニッたけど大丈夫、もう普通に大丈夫だから。


 ……そして、止まる足音。それは日付変更線。七月十三日になった時だ。今いる梨花のお部屋。梨花のお部屋を訪ねてきたの、忍び寄る足音が。――その正体とは?


 シルエットが鮮明になるも、アイスホッケーのようなお面やチェーンソーなどは持ってなくて、寧ろ素顔。ホラーとは無縁なこの光景。パパが訪れた、このお部屋に。


「梨花、パパも手伝っていいか? レッドコメットか。久々に作りたくなった」


「うん、一緒に作ろっ、パパ」


 と、梨花は満面な笑顔だ。……本当は、パパと一緒に作りたかったのね。あれれ? 何でだろう? 急に涙が込み上げてきて……そんな僕の様子を察してか、梨花は、


「千佳も参加だよ。一緒にバンプラしよっ」と、声を掛けてくれたの。その答えは、もちろん「うん」なの。二人の娘と一緒に、パパがバンプラ作り。その時、勝負のためという大義名分を越えたような気がした。……楽しくて、だから大好きになれると僕は思った。



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