第七六〇回 千佳と凛、その空白に。


 ――小学三年生から高等部一年生の間。お互いが、会うことのなかった年月としつき



 僕だけじゃなかった。


 あの時は怒り任せの部分もあって「地獄を見た」と言葉にしてしまって、言い過ぎたと反省。辛かった日々……りんもまた、同じだった。いじめは、凛も遭っていたの。


 それは小学四年生になった時で、僕もまた同じ時期だった。


 今までの普通が突然、変わったと言っていた。……それもまた、僕と同じだ。


 凛の場合は、失った右脚のハンディ。初めの内は皆、優しかったけど、それが次第に異形なものを見るような目に……皆が無視し、口も聞いてくれなくなった。それはクラスの子だけではなく先生も。担任の先生も、いじめの光景を知りながらも見て見ぬふり……


 そんな中で中学生になると、

 新たな風、新たな出会いを求めて……


 そこで出会ったジャッジメントのお仕事。凛は、そこで戦いの道を選んだの。


 ……何が、彼女をそうさせたか?


 その問いに彼女は答えた。僕の咄嗟に出たその問いに。……答えてくれたの。


「必要としてくれたから……かな?

 ジャッジメントのお仕事を熟すうちに、自分の存在に自信が持てるようになった。影のお仕事だけど、凛でも誰かの役に立ててるんだって思えるから。……でも、このお仕事はね、正しいことと信じていても、そう思わない人だっている。凛がかつて確保した相手のご兄弟に恨みを買っていたから、闇討ちもされて……そう思うと、そう思うとね……」


 泣き声に変わる凛。


 きっと凛のことだから、このように涙を見せたこともなかったように思える。


 手を差し伸べようにも、言葉さえも見つからずで、聞くことしかできなくて、そんな時だった。――「だから、皆がいるじゃないの」と響く声、耳にも心にも。そしてその声の主は可奈かな梨花りかも、せつまで一緒だった。僕と凛が佇む路地裏に、皆が集ったの。



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