第七五九回 ……でも、告げること。


 ――晴れたお空とは裏腹に、その帰り道は。



 二人きり。午後の授業をお休みして、歩む帰り道を二人きり。僕は送る、一緒に電車に乗って僕の最寄りの駅を越えた高槻という駅。そこから近いの、りんのお家。心配だから病院までついていくことにする。凛は受け入れも拒みもしないで、終始無言のまま……


 だけれど、


「訊かないの? 凛のこと。何があったのかを」


 と、痺れを切らしたのか、少しばかり苛立っているような口調。凛の一人称はそのまま名前だから紛らわしいけど、そこは昔から。幼き日から変わらない部分で、僕は安心感を得た。なので「……知られちゃ困ることなんだよね? 凛が言わない限り」と答えた。


千佳ちかはいつもそうだ。ホントは気になるくせに」


「気になるけど、僕は信じてる、凛のこと。誰かを守るためだったんだね。本当は戦いたくなかったけど、戦うことになったんだね。……だったら、僕も力になりたいの……」


 すると、凛は胸倉を掴んだ。

 壁に、僕の背中が当たった。


「ふざけないで! そんな甘くないんだよ、凛のしてることは。千佳は知らないの、知らないままでいいの。学園の表側にいてくれれば、それでいいんだよ……」と、ちょっと涙声になる凛。僕は深く息を吐いて、凡そは察しがついていた。その凛の様子から……


「凛こそ、僕を甘く見ないで。こう見えても、地獄を経験してるんだよ。いじめと家庭崩壊の危機も同時に。だから凛も一緒に学園の表側だよ。裏と表の壁を排除するんだよ」


 と、僕は言った、言い切った。


 今までは持てなかった自信だけれど、友を目の当たりに、駆り立てる思いと情熱が込み上がる込み上がる。すると凛は、凛の険しかった表情は……和らぎ、そして涙も……


「千佳には、敵わないなあ……」


 との一言から、まずは病院で傷の手当。凛が静かに語るのは、それからだ。



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