第七五三回 苦手な教科も共有すれば皆同じ。


 ――そうなの。苦手は誰にでもあることだから、退くことも恥ずることもないの。



 そのために、皆がここにいる。


 ……そう綴りながらも、僕もついさっき気付いたの。



 なぜ皆がここにいるのか。教室という場所に集うクラスメイトたち。そこには誰も、苦手を笑う者も、煽る者もいなかったと確信。それが証拠に、テスト開始のギリギリまで励まし合っていた。今日が一学期の中間考査の最終日。最後の教科……


 それは理科。


 苦手なのは、梨花りかだけではなかったの。実はりんも苦手としていたの。小学二年生のあの頃にはわからなかったのだけれど、その苦手ぶりは梨花以上のものを感じた。


 でも、凛は逃げなかった。


 それは、梨花の姿を見て。苦手意識は残るものの、逃げずに果敢に予習復習に挑んでゆく。可奈かなは感極まって泣き出す始末……「梨花、見違えるほど変わった」と太鼓判も添えつつ。その言葉が凛に、戦う精神を燃え上がらせたようだ。


 凛は負けず嫌い。


 きっと僕に会うまで、右脚のハンディキャップと苛酷な戦いをしてきたのだと思う。薙刀の試合でも、健常者を相手に戦っている。甘えは一切ない子だった。寧ろ、そのことを気にしたなら、凛は激しく怒るの。……「特別扱いはしないで」と。それが誰に対してもお構いなしで、先生に対しても怒鳴る始末だった。それが凛の、ゆずれない思いなの。


 そして先生が入室する直前、


「お互い頑張ろ」と、梨花は笑顔で……精一杯の笑顔で凛に言った。


「あいよ!」と、凛も笑顔で応えた。二人ともいい顔をしているの。なので、ここからは切磋琢磨だ。其々の挑戦が始まった。配られる答案用紙と問題用紙。ゴングの代わりに鳴り響くアマリリス。四十八分一本勝負が開始されたのだ。今日はその一本のみだから。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る