第七五一回 明日の今頃は、僕は学園の中へ。


 ――そう。汽車ではなく学園の中。昨日の帰り道で、太郎たろう君は僕に言った。



「このままいっそ、千佳ちかを連れて汽車の旅をしたいな」


 と、名残惜しそうな趣で。それは長い連休の最終日に起きる寂しさなのだろうか? とくに黄昏時には、その思いは込み上がる。でも僕は言う、小さな約束でも大いなる明日の楽しみへと繋がるのだから。……その時の太郎君の顔を見ると、とても可愛く思えて、


「旅ならまたいつでもできるよ。でも明日は学園で会いましょ。僕らはまだ学生。学園に通えるのは今の内だけだよ。新婚旅行は汽車がいいから、その時のお楽しみだからね」


 ……って、ボン! と効果音を上げる脳内。

 込み上がるお熱。見事な赤面を披露しつつ。


「へえ、新婚旅行ね」


「あ、今のは……ねっ、太郎君が寂しがらないように、そう思ったのっ」


 その言葉たちは残り。脳内をリズミカルに漂いながら、登校の朝を迎えた。昨日にしてみたら、明日の今頃は、正確には黄昏時なのだけれども、やはり朝になるの。この日はじめて顔を合わせた時が、その時……梨花りか可奈かな、三人並んで学園の正門を潜った時だ。


 トン! と、梨花が背中を押したの。


「何? 梨花」「ほらそこそこ、じゃ、僕ら先に教室に行ってるから」「ということでごゆっくり」と、可奈まで。……その視線の先には、太郎君がいるの。僕は近づく、テクテクと太郎君の傍に。見上げるの、やっぱり男の子は体が大きい……でも僕が、まだ百五十に満たないのもあるから。そして歩く、歩調を合わして。僕に歩調を合わしてくれた。


 思えば、いつも……


 大切なのは、一緒にいること。それが汽車でも学園でも。何処でも二人だけの国は仕上がるのだから。喩えるなら中庭。伝説の大樹に二人身を置いて、僕はあの日と同じように……旧一もとかずおじちゃんに御紹介したように今一度、心に刻んだの。


 この人は、僕の彼氏です。と、今一度。繋ぐ手の感触は、二人の想いを物語りつつ。



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