第七四五回 そして五月五日の背比べ。


 ――それは、柱の傷。三人で背比べ、この日になるとしたという、僕らのお母さん。



 そして可奈かなのお母さんも。


 それから、旧一もとかずおじちゃんも……とても仲良しだったという。北陸という地、ここに越してきた時が、北川きたがわ初子はつこさんとの出会いと、旧一おじちゃんは、お母さんの声を拝借しつつ、そう告げた。思えば、幸せな日々の薫り……なのに、いじめはそれをも壊したの。


 柱の傷は語るの。旧一おじちゃんはまだ、生きたかったの。


 僕には、わかるの。僕が死のうとした時、旧一おじちゃんが、もの凄く怒ったから。


 きっと、梨花りかの身体や言葉を借りて、僕を思い切り叩いたの。その時が、本当に見えた時だったの、旧一おじちゃんの存在に、とても大きな存在に気付いたその時だったの。


 キラキラ、夕陽に輝く涙が、その証拠だった。


 その日から僕は、梨花のエッセイを拝読した。


 等身大の同い年の女の子。僕と瓜二つな女の子が綴ったエッセイ。……初めて見る世界観。でも、どこか懐かしさを覚える温かさ……心に染みる、その思いは、そこから芽生えたものだ。潜在意識の奥深くで、僕は約束したと、今になって気付いた。旧一おじちゃんとの約束。……それは、書き続けること。処女作のウメチカが千回を迎えたとしても、僕は書き続ける。それが、約束だから。命の尊厳を、僕は語り続ける、これからも……


 千のストーリーズの向こうには、


 新たなる物語が待っているのだ。それはもしかしたら、星野ほしのシスターズの物語に発展する内容かもしれない。星野系列の女の子が皆、主人公となってエッセイを綴るの……


 そして、星野家が共通とするテーマ。


 梨花は、お友達から。僕……千佳ちかは、家族から。葉月はづきちゃんは、生きることから。十人十色の其々のテーマだけれども、旧一おじちゃんが求めたテーマと共通しているの。


 だから書き続けることは、


 ――旧一おじちゃんとの大切な約束だから。柱の傷が、僕にそう語りかけたから。



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