第七四一回 緑の薫り。とある旅の路。


 ――風鈴の音色、生い茂る緑の景色にマッチする。逸早く夏の風を誘う。



 レッツゴー、ライダー。


 緑の中を走るその車両。奥へ奥へと……本当は、バスの予定だったけれど、走っているのはキャンピングカーで、その色は真っ赤。そのライダーは庄野しょうのけん。またはマカロニ・二世と呼ばれる刑事さんで、善一ぜんいちさんの大先輩で、パパと大親友の関係なの。


「健、ありがとうな」と、パパは感謝の念を表した。


「なあに、いいってことよ。今日は特別な日だからな。新一しんいちに代わって唯一、俺が騎士ナイト気取りなれることだからな、千尋ちひろさんの道行き案内人に。それに、彼女に似た、この子たちのために……ってことだな。感謝しろよ、この子たちが母親似・・・ってことに」


「まあ、そういうことだな」「ああ、そういうこと。礼には及ばないだぜ」


 感じる男同士の、何とか……

 女の子の僕には、きっとわからないことだけれど、何かカッコいい。


 それにしても、思えばこのキャンピングカーは広くて最適。空調の感じが、まるで風と一体感。そのように思える。走る感じも、いかにも地面の感覚が伝わってきて……


「悪いな、もう少しの辛抱だ。

 今年の盆までには買い替えだな。愛車ボロだったけど、まあ、これに懲りずにな」


 と言ったの、健さん。その対象は僕に? ならば、お盆もまたお約束ってこと? すると、するとね、パパは「決まったな。千佳ちか、お盆も来るぞ、旧一もとかずお兄さんのお墓参り。それから家族旅行もまた。今度は『兼六公園』もいいな、梨花りかも初めてだろ、二人とも」


 そう、お約束を兼ねた。

 僕は喜ぶ、湧き出るワクワク感も兼ねて。


 それはまた、梨花も同じ。「楽しみだね、千佳」と、声にもして。


 そして今は、三所帯の家族が乗り合わせるこのキャンピングカー。その人数は十三名にも及ぶ。健さんには大いなる感謝だ。……でも、健さんの御家族って……独り身で?



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