第七四〇回 五月三日。迎えたその朝。


 ――ソフトに広がる白い世界。そして少し、ブルーの混ざった柔らかな光。



 そこは、屋根裏部屋……


 今日は、五月三日。その朝を迎えた……



 緊張溢れる一日のはずなのに、それをも忘却させられる、そんな光に包まれて、安らぎをも得られたようなそんな心境。傍には梨花りか……見渡せば可奈かなも、葉月はづきちゃんもいる。


 スヤスヤと寝息も、とても穏やか。

 同じ乾草のベッドの上。皆一緒と、そう思うと癒される心……



「おはよう」と、梨花を皮切りに緩やかな目覚め。可奈も葉月ちゃんもそれに続いて。


 喩えるならば、天使の密会? 皆、着ているものが白いの。この場所はお気に入りとなる、四人共通の。そこにあるものは、蓄音機……つまりレコードプレーヤーの旧式版。


 動かし方は? 回すのハンドル……


 すると動いた。四人が四人とも夢中。音楽の速度はハンドルの回転により調整……


 流れる懐メロ。何だか何だか聞き覚えのあるような? いつかどこかで、そう思いつつも「あっ、これって、あの少女漫画だよ、千佳ちかのお気に入りの」と、梨花は言う。辿る記憶に手繰る想い出の糸。それはユーチューブから。いやいや、もっと古式なもの。


 お母さんが幼少期に見たというアニメ。


 レコードはその当時のもの。……だとすれば、そう思った途端に軋む階段の音。誰かが上がってきたと思ったら「あら、懐かしいね」との台詞も込みで、お母さんが近づいてきた。そして「帰ってきたら、皆で聴こうね、レコード」と、満面な笑顔で言ったのだ。


 思えば、お母さん以外の此処にいる皆は、生まれて初めてレコードを見た……ということになる。僕は、予めネットで見ていたの。お母さんがその話をした日に。それはそれはもう三月三十日のこと。もう二年前のことまでをも、今日に叶うこととなるのだ。



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