第七三七回 ある意味、前夜祭だから。


 ――それは、今宵のこと。



 でもまだ黄昏には早いの。今はまだ、サンダーバードに乗車中。梨花りかと一緒に車窓の外を流れる景色に無我夢中で。見る見る変わる目的地へ向かう一部始終を描いてゆく。


 駅の順番もまた楽し……


 敦賀、武生、福井、芦原温泉、大聖寺、加賀温泉……個性あふれる駅もまた楽し。


 そして次なる駅、此処にはローカルな電車に乗り換える。白と青の電車。そしてローカルな駅……僕は思うの。鉄道模型に欲しい景色と。駅の名は動橋いぶりばしというの。無人駅。


 ホームも、駅も出ると、そこには食堂がポツンとあるだけの、カントリーロード。まずは腹ごしらえとばかりに、パパと、藤岡ふじおかひとしさん……ではなく、ここでは可奈かなのパパが意気投合をした上に、張り切って入るその食堂。星野ほしの家と藤岡家が合同となって一緒に。



 座るテーブルを囲む。並ぶ其々の生姜焼き定食。


 これもまた初めてで、家族全員揃っての外食……アクリル板で遮られるものの、思い出深い一コマは保障済み。食す僕と梨花、誰が一番の大食いかを競いそうな雰囲気だけれども、可奈が一番を飾った。その次に可奈のお姉さんの奈々ななさん。藤岡家は体育会系が揃ったイメージの面々。食が終わり大満足ともいえる笑顔弾む道程。普段はあまり会話控えめと言っていた面々が、家族団欒の会話で飾っていた。その仲は良好、文句はなしだ。


 水田広がる青い世界……

 信号機と同じ理屈の青。青でも緑色の青……


 列をなして歩くさまは、遠足のようでもありピクニックのようでもあり、その中、


「よお、新一しんいちじゃないか」と声を掛けられたのはパパ。


「おお貴様か、向かう先は同じか?」「ああ、同じも同じ」「先急がぬのなら、寄ってかないか?」……って、パパの知り合い? 男性。パパと同い年くらいの。


 聞こえる会話は、懐かしさに溢れて。旧友と呼べる関係にあるらしい。



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