第七三三回 三十三回目の何か? その夕映え。


 ――街歩く。町歩くではなく、街歩く。未だ梅田の街。



 でも、街灯には程遠い、そんな時刻で。今はまだ夕陽。その中を歩む二人……


 それでも雑踏の中。何処へ行くにも人とは接触するの。見知らぬ人ばかり。初対面な人ばかり。マスクも個性の現われ。様々なスタイル……特に夏に向かう五月は。


 僕ら二人は、さっきマスクを外し二人だけの世界……


 観覧車の頂点で口づけ……キスの余韻が今もまだ残っている。きっと二人とも。


 繋ぐ手が、それを物語る。熱籠るお互いの手から。「あのっ……」と声を掛けるも、二人同じタイミング。そしてお互いの、ちょっぴり赤い顔を見ることになるの。


「え、ええっと、太郎たろう君から」


「ち、千佳ちかから、何か言いたいことが?」


 レディーファースト? こんな時に? 余計に顔が熱くなって……察してほしかったけれど、まあ、誕生日の順からすれば、僕の方がお姉ちゃんだし、お姉ちゃんだしね……


「い、行こうか、タイガースグッズ」


 と、思い切り上から目線? ちょっと姉貴ぶってみた。すると、少し力のこもる手。繋ぐ手を離さぬようにと。何か、キュンとするものを感じたの。脳の深い場所。


「行こう、通算三十三回目のタイガースグッズ。レッツ、百貨店だ」


「うん!」


 足取り軽くなる僕ら。そう三十三回目……太郎君と出会ってから。その出会いは小学六年生から……ハッとなった、その瞬間。あの日、僕が無意識に行こうとしていた場所、そこは、太郎君との想い出の場所だった。雨の日の七月六日。僕の十三歳のお誕生日。その出会いは梅田の地下でティムさんとの出会いだったけれど、僕は君に会いたかった。


 込み上げるもの。……ちょっぴり涙を誘われたけど、


「Tシャツより帽子だよ、Hのロゴ入り」


「モチだ。千佳とお揃い。これから初夏だもんな」と、弾む声とエスカレーターと。



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