第七三〇回 忘れ得ぬ、SとMが揃う初夏の扉。


 ――それは仮面を外した時、お互いの。その素顔に、そっと風が当たってくる。



 靡く髪は、より魅力を引き立てる。ライダースーツのまま素顔を見せる、先程までは仮面タイガーMを扮していた瑞希みずき先生。その傍には消えたはずの怪人……ドラゴンS、着ぐるみを脱いで、その正体も明らかに。此処はもう舞台裏。僕らが目の当たりにしているのは、そのショーの……子供たちの知らない素顔の光景だった。


「瑞希、動きの切れが鈍ったな」「聡子さとこも。もうすっかりおばさんだね」「うるせえ、一児のママがするアルバイトじゃないな、お互い」「えっ、そうなの? 聡子、いつ結婚したの? 子供もいつ?」「おいおい、あたしたちの結婚式に来たじゃないか、仲人もしてくれて……今度遊びに来いよ、令子れいこも一緒に。そういや皆、一児のママなんだな」


 と、もう二人だけの世界を満喫しつつ、絶えない会話で。


 初めてお目にかかる瑞希先生のお友達。聡子さんというお名前……とても背高。しょうさんを超え、早坂はやさか先生より未満。でもでも瑞希先生よりも二十センチちょいの開きがある。


 それにしても、聡子さんだからSで、

 瑞希先生だからM……ということは、もしかするとSM。SとMの関係ってことで……


「そんなわけないだろ」


 と、二人揃ってハモる台詞。息もピッタリ名コンビ……って、その時だ、僕は衝撃を感じたの、脳内で。ある種の記憶が蘇ったの。とある噂。何処で、誰から? 思い出せない5W……タイガー&ドラゴンという通り名、学園の七不思議の一つで、興味津々なの。


「じゃあ、自由研究の課題だな、嬢ちゃん」


「へっ?」と、いつの間にか、僕の目の当たりに、その聡子さんの顔……


「君は、瑞希の生徒か?」


「はい」「そうか。じゃあ間違いなしだ。君は思い切りエンジョイだな、高等部生活」


 と、唐突に。でも不思議な感覚……


 初対面なのに、とても馴染める……何だろう、この感覚?



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