第七一七回 GWはもう射程距離で。


 ――それは三日。研修の余韻もそのままに、GWまでのカウントダウン。



 三年ぶりに制限なし……


 しかしながら油断は禁物。コロナ禍が収束したわけではないから。……でも、三年越しなの。世は情けで望郷を求める者も、恋の旅情を満喫する者も、全部が全部したいこと。


 GWの家族旅行は初めて。

 GWの恋の旅行も初めて。


 コロナ禍になってから僕は、パパとお母さん……全員揃った家族と一緒に暮らし、そして太郎たろう君との再会も、そうだった。そう思うも、今は青空の下。学園の校舎の中に身を置いている。されど心はもう、GW。でも待って。そんなことしちゃったら。


「じゃあ、千佳ちかさん、読んでみて今のところ」


 と当てられてしまったの。まったく油断も隙もないから。なので取り敢えず立つ。その途端ツンツンと突かれる指で。「六十八ページの三行目……」と、小声で横ではなく後ろから。横の席はりんだけれども、後ろの席はらんなの。少しチラ見で「ありがと」と感謝で。


 胸を張って読む……


 でも何だか、と、そう思うのも瞬時のことで「逆様、教科書逆様だよ」と、今度は凛が言うの。クスリと笑いながら。もちろん小さく、音量も控えめで。


 こんな時、大抵は柴田しばた先生の授業の時だけど、

 この度は、珍しく瑞希みずき先生の授業の時だった。……それが証拠に今は国語の授業なの。


 声に出して読むのは、小学校の時から何ら変わりはなし。研修のユニットバスのことを思えば造作もないこと。落ち着けば大丈夫。無事に読み終えるから、何処までも? そう思いながら何処までなの? 気付けばもう一ページを超え……三ページ目を迎えたの。


「ありがと、そこまでね」

 と、ようやく声が掛かった。雨上がりの晴れやかなお空……


 僕らに知らせるの、GWまでのカウントダウン。小鳥のさえずりも、新鮮なままで。



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