第七一五回 Shall We Dance?


 ――そう何度でも。転んでも起き上がる。七転び八起き、それ以上になっても。



 天気てんきには理解できていた。りんがそうして薙刀を続けてきたことを……


 きっと僕の何百倍も涙したことだろう。きっと立ち上がるにも、僕の何百倍もの辛い思いがあったはずだ。それを思わせない程の日頃の振る舞い。ここにきて思い知らされる。


 涙が溢れそうになるけど……


「ワンスモア、千佳ちか。解れるまで何度でも」


「そうだね。勝負はこれからだよ、太郎たろう君」


 起き上がる僕ら二人。ウンウン頷く天気。凛とらんも見守る。その中でまた、僕らは手を取り合う。ステップも軽やかになってくる。足取りも、フワリというレベルまで……


「千佳、俺に体を預けて……もっと」


 その言葉が、僕の鼓動を呼ぶ……今一度の、あのウメチカ戦で共に戦った、あの呼吸を呼び覚ますように。鼓動を感じる程に預ける僕の身……その時、確かな手応えが……


「太郎君、もっと受け止めて、僕を」


 そしてもう、言葉を越えて、天気も凛も蘭も三人が三人とも。それ以前に今はもう二人の世界。時を忘れる程に夢中。それどころか稽古不足を幕は待たないとも思えて……


 惜しむほどもっと。


 ここで再び築いた二人の世界をもっと堪能したいから。


 Shall We Dance? それは、時を止める程の合図なの。


 今はもう、特訓も練習も強化訓練も、本番さえも、もうその境界線は溶け込んで、常に楽しい状態にまで至った。衣装も僕は赤いドレスに、太郎君は青い蝶ネクタイに白いタキシード。ドミノマスクはいらず、仮面舞踏会ではなく素顔の舞踏会。笑顔弾むための。


 ホテルの一階フロントは、もうテーマパーク。


 ダンスパーティーと化していて……その中での社交ダンス。自由の踊るまでに……


 プリンセスの道には、ベートーヴェンの交響曲第九番『歓喜の歌』がこだましたの。



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