第七〇九回 伸び伸び、弾みに弾むの。


 ――それは加減知らずで、飛びに飛び交い、誰もが燥ぐ心を表現した白い枕。



 その火付け役は、やはり可奈かな……


 その挑発に、りんちゃんがいとも簡単に乗ったところから流布に流布して……


 今ではもう、このお部屋にいる六人が六人とも、ごく自然に全員参加の枕投げ。僕らの中では修学旅行の……せつのお家でその予行練習をしてからの定番となっていた。


 なら、摂や可奈、僕と梨花りかは既に経験者。だけれど、凛ちゃんや円城寺えんじょうじさんはこの度が初体験となるのだけれど……意外や意外だった。大人しいというイメージで定着していた円城寺さんが、喩えるなら水を得た魚のように、枕を投げているの、誰よりも。


「楽しいね、結城ゆうきさん」と言う具合に、二人はタッグを組むまでに、……って、標的はいつの間にか僕になっちゃっていてって、……凛ちゃんが僕ばかり狙ってくるの。


千佳ちかちゃん、さっきの拳骨のお返し。倍返しだから」


 とまで言う始末。それから更に「らんちゃん、遠慮なくやっちゃってね」「えっ? 結城さん、下の名前で」「そうだよ、今から此処にいる皆、下の名前で呼び合うの。もちろん凛のこともだよ。今この時から『ちゃん付』もなしだから、千佳ちゃん。ううん、千佳」


 ということにまでなったの。僅か一夜の間で……


 そして、


「ちょっと、私を差し置いて勝手に仕切らないでよ」と、可奈が言うも、


「何? 自分がリーダーのつもりでいるの? だったらくらいな。こっちとら新米二人組の底力なんでね。だよね、蘭」「ええ。凛、とことん付き合ってもらうわよ、皆」と、この二人は止まらない域に達している。それどころか、ブレーキでも壊れたかのようなの。


 すると矛先が変わって、


「なんで私?」と、可奈の悲鳴が響く。「ちょ、可奈、私を盾にしないでよ」と、摂の悲鳴まで飛び交うの。その傍でクスッと笑う梨花。まあ、僕も人のこと言えないけど……


 円城寺さん……ううん、蘭が僕らに溶け込んだ今宵。これも凛のお陰ということだね。



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