第七〇六回 それは素敵なこと。


 ――サプライズ? それとも、甘いトラップ?


 仕掛けたのはりんちゃんだとハッキリわかる。表情に出る素直な子で、お話の展開も推理小説みたく華麗な展開にはなれない。ごくありふれた青春アオハルの、ちょっと大変な展開。


 ……と、いうわけで、


 お湯に浸かりながら、落ち着きを取り戻そうも、


 顔が暑いのもお湯の効果で、ドキドキ感はポカポカ感と混ざり合って、きっとリラックス効果はより一層得られたと思うの。きっとそう……


「あ、あのっ」


 と声を掛けるも、呼吸もピッタリに合唱となる。横並びに、お湯に浸かっている。肩まで……首より下が見えないようにと、それは太郎たろう君も同じで、あくまで顔は向けないようにしてお互い。タオル一枚も手元にはなくお互い……本当に、生まれたままの姿で。


「どうする? 誰も来ないうちに、今なら来た道戻れば大丈夫かな……と」


「今無理だ、千佳ちか。とても上がるには……」


 僕は振り向く。そして見えちゃったから……「じゃ、じゃあ、このまま。た、堪能しようね。そ、そうだね、温泉旅行、行きたいね、二人で。その予行練習ということで……」


 目のやり場に困ったけれど、それはお互い様と思う。


「ま、まあ、慣れなきゃね」


「なら、結城ゆうきさんに感謝かな。……凛ちゃんなりの心遣いってことだしな」


 と、その言葉によって、


 僕の右手が、太郎君の左手と繋がった。その時、――ポチャ、と音が響いた。ドキドキと息遣いだけの、お月様を彩る静かな時間だけに、その音はあまりに目立った。


 ギクッとなる、ドキドキ……


 確実に近づいている感じのみず。湯煙の中で、そのシルエットは薄っすらであっても確実に、視野の中に入る。「誰かいる? いい湯だよね、ここ」……女性の声。


 特徴のあるシルエット。ポッチャリさんで、よく知っている人のようだった。



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