第七〇五回 お月様が見ている。


 ――君が、自分の力だけで、皆がいるだろう、大浴場へ歩くところも。



 片脚だけで、慎重に……


 そして僕は、見届けたの。君が大浴場に、無事に入るところまで……



 君とは、僕の親友のこと。りんちゃんのこと。この研修から、気丈に振る舞っているように思えて、……肩に力、入り過ぎてない? と心配になることもある。それを押さえるようにと肩まで浸かるお湯に。生まれたままの姿で、フーッと深く息を吐く。


 真っ白へ変わる脳内……

 気持ち良さが広がる。見事なるリラックス効果を得られたようだ……


 …………すると、


「うおっ、何でここにいる?」と、声が聞こえる? 割と近くのようで、


「はうっ、ちょ、ちょっと?」と、僕の視界に、そのど真ん中に、有り得ないと思っていた……それどころか、思いもしなかった光景が、そうそう、何かの間違いだよね……


 そう思いつつも、紛れもなく太郎たろう君が、僕の前に立っていて、しかもしかもだよ、全部が全部見えちゃって、何もかも……「何してるの? ここ女湯だよ、まずいよ」


 と言うも、それしか言葉が見付からず……


「でもさ俺、男湯から入ってきて、ここに辿り着いたんだけど。……露天風呂があるって聞いたから。千佳ちかこそ何でここに? って、もちろん女湯からだよな。もしかしたら」


 ――嵌められた。


 同じことを思ったの。僕も太郎君も、その……全裸で。僕は顔からは、恐竜映画並みの火が出ていて……って、「とにかく浸かる、僕の横にいて」と、グイッと引っ張る、太郎君の手を握って。初めて見るお互いの裸ではないけど、恥ずかしいことには違いない。


 研修の、その真っ只中で。修学旅行とは違うのに……


『素敵なことが起きるから』――凛ちゃんが言っていたことの意味は、ここからなの?



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