第七〇四回 そして夜の静寂へ。癒しのタイムへと。


 ――ヒーリング。ここでは癒しの世界観。静かな時の流れ。



 見上げれば、もう星空……


 カレーライスの余韻も浸りながら、お湯の中へと身を浸す。同じ湯の中、先程まで激戦を繰り広げていたとは思えないほど、穏やかに和やかな、ほっこりとする身と心……


千佳ちかちゃん、太郎たろう君とはいつから?」


 と、唐突に訊いてくるりんちゃん。カレーライスの時間までは、まだ南條なんじょう君と名字で言っていたけれど、ここにきていつしか太郎君と名前になっていた。僕には、まだ凛ちゃんが何を考えているのかわからないけど、……いや、わからないことだらけなのかも……


「小学六年生の時かな。初めは何か、僕によく似た子と間違えてたようなの。本当に僕とよく似た子。見分けるの大変なほど、いざ会ってみるとね、納得も納得でね」


 と、答えてみた。すると凛ちゃん、ニンマリして……


「じゃあ正解だったね、飯盒炊飯。梨花りかちゃんの炊いた御飯を凛たちが作ったルーに使って。それで円城寺えんじょうじさんが炊いた御飯をね、千佳ちゃんと太郎君が作ったルーに使って」


「美味しかったね」「うん、美味しかった」


 ……と、浮かぶお月様を見ながら。フーッと息を吐いてから凛ちゃんは、


「じゃあ、凛は先に大浴場に行くね。

 それにしても、この研修施設って洒落てるよね。露天風呂だし、ライトアップも綺麗だから。千佳ちゃんは、もう少し満喫していきなよ。きっとね……」


 ――そう。素敵なことが起きるから。


 耳元で囁く凛ちゃん。でも、僕は耳元が弱くて、ぼんやりと聞いていた。


 その意味が、どういうことなのか知る由もなく。……当然ながら、ここはお風呂で、身に着けているものは何もなし。凛ちゃんとは裸で語り合っていた。そして凛ちゃんは、一人でお湯から出た。誰かと一緒ではなくて一人で……片脚で、自分の力で。


 手を差し伸べようとしても、「一人でできるから」と、凛ちゃんが拒むから。



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