第七〇三回 杏子色の夕映えは、その場所を変えて。


 ――そこは、お外。隔てる壁はなくて、浴びる夕映えの色。



 そこで行われることもまた……


 研修の課題。飯盒炊飯によるカレーライス。つまりは『食育』と、柴田しばた先生は言う。予想では、修学旅行の時と同じように各班に分かれての作業と思っていたのだけれども、予想は覆される。……じゃあ、どのように? カレーライスは変わらないけど、各班ではなく二班が合同。二班が共同作業なの。僕らの班は、男子の班と合同となった。


 男子の班も六名……


 その六名の中に……その中に、……トントンと肘を当てながらりんちゃんは、


「ほらほら、意中の人ダーリンと共同作業だね、千佳ちかちゃん」


 と、囃し立てるの。それに釣られたのか、男子の方も「じゃあ、この二人が主役ってことで、俺たちは脇役に徹するかな、調理は女子の方が得意だしな。まあ、適当に……」


 と、その内の一人が言うも、バシッと効果音が響いた。「あっ、痛いな」と、その男子の悲鳴が聞こえ、「何言ってるの? あなたは凛に協力するの。全力全開で千佳ちゃんと南條なんじょう君に負けないカレーライス作るんだから。……あっ、ところで、あなた名前は?」


 その男子の名前は、北條ほうじょう君……北條ひかると言った。


 凛ちゃんは、改めて北條君を見るなり「ふ~ん、中々いい感じじゃない」と、ツンとした感じで言ったの。何処となくだけれど、凛ちゃんは何か照れているようにも……って、


「ほらほら千佳ちゃん、見てないでサッサと取り掛かる。

 飯盒炊飯は梨花りかちゃんと、ええっと、円城寺えんじょうじさんが得意なようだから。凛はルーで勝負するからね。これで対等、文句なし。千佳ちゃんと南條……太郎たろう君にね」


 ――そうなの。


 太郎君の名字は変わったの、ついに。


 霧島きりしまから南條へ。これ、どういう意味かわかる? ……そうなんだよ。


 式はまだだけど、席を入れたの。お父さんもお母さんも、これからの太郎君のために。



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