第六九九回 イッツ、ファンタスティック!


 ――まさに、そう思えるような光景。以前よりも広大な、この景色。



 映える緑色……

 皐月近しな、そのかほり……


 まさに切り取ったような世界観。バスでは、多分一時間ほどの移動。辿り着くも興奮止まず、特にこの子は。他の誰でもなく、りんちゃんは燥ぎまわっている。


 このお空へ、踊り出る程……

 僕は思う。そんなに待ち侘びていたの?


 この研修――


「そうだよ。凛は、この日が来るのを楽しみにしてたんだよ。

 これからも。臨海学校だって修学旅行だって、それに文化祭も体育祭も、……学園生活の全部が全部楽しみなの。凛は全力全開で楽しみたいの。千佳ちかちゃんに負けないから」


 と、歓喜も歓喜な声で、奏でる言葉。グッと伝わるの、僕のハートに。


 そこから染み出る……凛ちゃんのこれまでのこと。両腕で、グッと僕の右腕を締め付けてくる、この上ない凛ちゃんの満面な笑顔。「楽しもうね、千佳ちゃん」


 と、地上からお空へと舞い上がるように。まるで天使? 無邪気な子供のよう……


 すると、「ほら、そこ、グズグズしない。ちゃんと整列」


 と、怒号が飛ぶ。柴田しばた先生の声。引き締まりを感じる、ゾクッとするほど。それでもって士気が高まる、ここに集う生徒たちの……高等部一年生は全三クラスある。一クラスは二十四名だから、その三倍になる。引率の先生は、僅か六名。それはまるで、令和の教育事情を物語るの。柴田先生が中心者となり、他の先生たちのリーダー役へと躍り出る。


 その中でも、瑞希みずき先生はまだ……


 日が浅き部類に入るそうなの。高等部の先生たちは、十年を超えるベテラン揃いだ。


 ある意味、この研修は瑞希先生の研修でもあるのだ。……そう、高等部の初イベントから、中等部とは違った意味深い内容の物語が、ここから始まる。七〇〇回の幕開けも。

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