第六九七回 我思う故に我あり。


 ――気付けばゴールデンウイークまっしぐらな日捲りだけれど、その前に立ち塞がる。



 そうなのだ。高等部生活に入るのなら、誰しも通る道。


 中等部三年生の頃から噂では聞いていたけれど、本年は確実にあるとのこと。それは、


 ――高等部生活に於ける心構えのための研修。


 それが正式名称であるかは不明だけれど、その名称からして厳しきものとわかる。研修中に泣いちゃう子もいたという噂も聞こえてくる。でも、それとは真逆に、修学旅行のように楽しいという声も……


「どっちが本当?」と、僕は思わず声を大にして。しかも授業の真っ只中ということも忘れ、勝手に起立。机もバン! と両手で叩きながら。すると柴田しばた先生が……


「そうだな千佳ちか、自ら進んで質問をすることはいいことだ。確かにこの方程式は、こーとも解釈できるが、あーとも解釈できる。でも真実は一つであるように、答えも一つ……」


 と声を張りながら、黒板に書いていくの。その二通りとも思える方程式を。


 バン! と黒板を叩く柴田先生。そして、それは……


「さあ、どう思う? 千佳」


 って、僕? その質問は僕に向けられたのだ。そもそも違うことを考えて、偶々成り行きでこのように……そして周りはというと、小さくもクスクスと笑っている。


 救いを求めようと梨花りかを見るも、懸命に笑いを堪えている様子。皆が皆……何か僕の知らない所で打ち合わせでもしているの? と、思えるほど……


「すみません、またやっちゃいました。違うこと考えてました」

 と誠心誠意。その思いで謝罪をした。


「まあ、それも大事だな、千佳」


「へっ?」


「学問は授業の中だけじゃないからな。違うことでも先生は大歓迎だぞ」


 と、柴田先生は喜んでいる? まあまあ、そんな感じだった。



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