第六九四回 方程式もまた、ある意味では小説よりも奇なり……のようなの。


 ――それはまた、僕が『ウメチカ』という連載を続けていることも、含むのかな?



 今、僕は僕として生きている。今生の出会いを繰り返しながら……


 梨花りかと出会ってなければ、僕らは見知らぬ二人のまま、可奈かなともせつとも、太郎たろう君とだって再会できなかったし、美千留みちるとも、僕はまだ醜い心のまま……りんちゃんと二度と会えなかったのかもしれない。そして、僕は悪の……悪い子のまま。もしかしたら、今こうして生きてないのかもしれないの。そんなマイナス思考の僕を、助けるだけではなくて、


 ――変えてもくれたの。


 こんなこと、普通は綴れないよね? 何故こうなったかというとね、


 僕らの出会いは決して偶然ではなく、近頃は、変わったことが続いているからで、迂闊にも高熱が出たから……梨花は励ましてくれた。傍にいて……


「ダメだよ梨花、僕の傍にいたら」


 と、お布団の中で涙目で見ていると、梨花を……


「言いっこなしだよ千佳ちか、お母さんもパパも、お祖母ちゃんも、ママも皆同じ思い。まして僕と千佳は、二人で一人なんだから。……それに、御飯は残さず全部食べたでしょ。エネルギーを蓄えているから。新しい環境でちょっぴり疲れただけだから、明日には治るから、僕が保証する。なので、今日は千佳と寝る! これ決定事項なんだからっ」


 と、梨花は力を込めて言うから、


「あの、状況わかってる?」「百も承知、お姉さんの絶対命令なんだから、文句言ったら叩くよ」……怖かった。梨花なら本当にやりかねないから。そして僕は言うの……


「ちょっとだけ待って。書きたいの、どうしても」


 と、訴えるような感じにきっと見えたと思う、梨花には。そして梨花はニッコリと、


「わかった。僕は準備するから、パジャマに着替えて。……あと、ゼリーも取って来るから、体を温めてやるんだよ」と言って、梨花は僕のお部屋を出た。……そうなの。面と向かっては言いにくいことなの。それは、そっと、あなたに――ありがとうと。

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