第六九二回 薄紅色から緑色の五月雨へ。


 ――肌寒さを残す入学式から、いつしか緑色の温かな風のかほりへと時は流れた。



 春の迷いか、旋風のようにも。


 皐月へと誘う冷たい雨から、雷伴う温かな雨へ。


 今日は十三日の次の日……十四日の木曜日。入学式とはちょっぴり異なるシチュエーションの帰り道。同じなのは、りんちゃんと二人ということ。異なるのは、急な大雨。


 何故二人なのか?


 今日の場合は、凛ちゃんの初めての立ち回り……じゃなくて、学園の、薙刀部に入部した初日に、何とお手合わせがあったの。相手は、その部の部長……の予定だったのが、急に乱入してきたの。葛城かつらぎしょうさんが、凛ちゃんに向かって薙刀で攻めてゆく。翔さんのその心は一体何か? そこを問う僕は。凛ちゃんの見届け役に位置した僕……



「嬢ちゃん、皐月さつき主将とお手合わせ願うのなら、まず俺に挑戦しろ」と、翔さんは言う。


 その心は、結局は答えにならず解らない。けれども、皐月主将と翔さんは、一度は対戦したと見える。それとも、薙刀でお世話になったとか? 思うに、何らかの目的によって習っていたとも思えるの。そして颯爽と、凛ちゃんは乗る。翔さんのその挑発に……


 始まりは稲光。雷鳴轟くその瞬間だ。


 薙刀といっても競技用のもの……念のため。電光石火のような身のこなし。背筋が凍りつくほど、驚きの結果を迎えたの。凛ちゃんの薙刀の先が、翔さんの首を捕らえていた。


 まるで、首を掻っ切るような殺気……


 翔さんも怯えるほど。この時は、凛ちゃんは杖を使っていない。右脚が義足とも思えない動き。そう思っていると、次の瞬間には、凛ちゃんはニッコリ笑顔。まるで別人? のような表情の変化。「この勝負、凛の勝ちだね。じゃあ、また時改めて主将さん、お手合わせよろしゅうお願いしますね」との約束を残して、帰り道へ繋いだというわけなの。


 なので、またも二人。しかも大雨の。今は雨宿りの駄菓子屋さんに身を置いている。



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