第六九一回 入学式の後は、まだ午前中。


 ――それは、まだ青色をした風が、流れる時刻。



 若干の肌寒さを残す、ちょうどいい気温。引き締まりも、ちょっとばかり緩めの。その中を歩む。ランドセルを背負っていた頃の面影を感じながらの帰り道……


 童心に戻るという感じにも似た、高等部の初日。


 本来なら、集団下校とも予想されそうな、お馴染みの面々が集ったクラスだったのだけれど、今歩くのは、何故か二人きり。小学生の頃を思わせる想い出の調べが聞こえてきそうな、そんな場面。りんちゃんと二人、並んで歩く帰り道となっていた……


 可奈かなが、仕組んだことなの。


 梨花りか太郎たろう君を制しながらも……「いい? 今日は凛と帰る事。都合が良ければ凛の家にも寄って人生ゲームしてもOKだから。とにかく一緒に遊ぶ事。そうしなさい」と。


 その可奈の言ったことに、凛ちゃんはご満悦。


 ……並んで歩く舗道。それは何処まで続くの? 僕は知らない君のお家……


 当然昔とは違う。僕のお家の場所が、あの頃とは違うように、君のお家の場所もまた違う位置に。未知なる場所。それはまた、僕の知らない君が歩んできた道の象徴。


 その象徴に、僕は興味を覚える。


 自分のことだけで精一杯だった、僕の心の狭さは、いつしか触れ合いの中で広がっていた。……もうボッチには戻れない思いと、もうボッチに戻らないとのその思い。それは出会いがあったからなの。初めは梨花と可奈から始まった、もう一度と思える希望の道。


 そして今は……


 本当なら、失っていたこと。それも倍返し……いいえ、その百倍や千倍になって返ってきているの。これまでのことも含め、凛ちゃんと並んで歩いていることもまた然りで。


「懐かしいね、千佳ちかちゃんとこうやって歩くの」


「そうだね、あの頃の、小学生に戻ったように。……色々あったね」


「色々あった……でも、千佳ちゃんは沢山お友達ができてたんだね。それに、彼氏も」



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