第六八九回 一触即発は、転ずるもので。


 ――それは、次の瞬間に起きたの。



 グランドの真ん中、流れゆく仄かな花のかほり。対峙している……薙刀を構え、瞳を潤ませながら赤い顔をしているりんちゃんと、それとは対照的な落ち着いた趣の可奈かな


「何ムキになってるの? それで殴るつもり?」と、可奈は言う。火に油……と思いつつも、凛ちゃんは次第に、涙が溢れてきているように見え……って、


「言うなっ、どうしていいのかわからないのっ、何であなたは構えないのよお?」


「構えるも何も、どうやって? 喧嘩でもすると思ったの? それに、それって神聖なるスポーツの道具でしょ? こういうことに使うもんじゃないよね? ねえ、どうなの?」


 すると……

 凛ちゃんは、とうとう泣いちゃったの。


「じゃあ、どうしたらいいのよお。あんた何が言いたいの?」


「私が言いたいのは、あなたがそんなに構えてたら、挨拶だってできないでしょ。あなたが千佳ちかとお友達なように、私も千佳とお友達。そして凛、あなたともお友達になるのよ」


 と、可奈の一言。……何だか可奈が、大人に見えたの。


 僕には思えたの。とても響く言葉だったと。それが証拠に、凛ちゃんは泣き止んだ。そのタイミングを見計らってか、――そう、よく周りを見てごらんと、語り掛けるように、


「行こっ、凛ちゃんも一緒に」


 と、声を掛けたのは天気てんきちゃん。そして美千留みちるせつも、太郎たろう君も梨花も……皆が皆、周りに集まって囲んでくる。凛ちゃんの周りを囲んだの。それほど時間はかからなかった。


 そして、可奈は笑顔を見せ、


「皆も一緒。私だけじゃなく、凛のことをもっと知りたくて、お友達になりたい連中ばかりだからね。一年生になったら『お友達百人を目指そう』ってなかったかな? CMで」


 と、言うなり、凛ちゃんはプッと笑って、


「それ同じピカピカの一年生でも、小学生だから」と、もうすっかり溶け込んじゃって。



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