第六八八回 凛はね、勇気凛々な女の子。


 ――と、声高らかに付け加えた。右腕を、天空に翳しながら。



 僕は思う。りんちゃんが、これまで歩んだ道程を。明るい感じの子だけれど、その裏では泣いたことだって、僕が思う以上に辛かったことだって、あったに違いない。そう感じさせないように、凛ちゃんはいつも、勇気を持って笑っていたように思えるの……


「ほらほら千佳ちかちゃん、行こっ、クラスだってまだわかんないし、グランドにあるんでしょ、掲示板、クラス分けの。一緒のクラスだったらいいね、千佳ちゃんと」


 グイグイ引っ張る僕の掴んだ手を……


 でも、本当のこといえば、

 凛ちゃんは、昔の面影を残したままの凛ちゃんでホッとしていた。すると、


「ちょっと、ちょっと、

 待ちなさいよ! 何勝手に私の友達に手を出して引っ張りまわしてるのよ」


 ――ン? 聞き覚えのある声だけれど、この独特な口調は、


可奈かな、遅かったじゃない」と、僕が言うと、凛ちゃんはムッとした顔になって、


「あんた誰? 千佳ちゃんの何なの? まるで千佳ちゃんを自分のものみたいに……ダメだよ、千佳ちゃんは凛のものなんだから。奪おうなんてしたら、凛が許さないんだから」


 そして構える。薙刀みたいな……


 いや、薙刀だった。それでもって、凛ちゃんは言うの。「千佳ちゃん、凛はね、ちゃんと薙刀できるんだよ。杖がなくても立てるんだから。凛は、ママと約束したんだからね」


 ――もう泣かないって。


 薙刀で、日の本一になるんだからって。……そう聞こえたような気がしたの。


 フッと息を吐く可奈は……


「凛……だったっけ。あなたとは色々とお話しないといけないようね。こういう人付き合いには、和というものがあるということを、色々教えてあげないとね。お友達の付き合いにはね、ルールというものがあるってことをね」と、言い放つのだった。



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