第六八七回 そして学園へ。集える人々。


 ――学園の、正門を間近に、それは起きた。午前八時半よりも十分前に。



「おはよう!」と交わされる、個性あふれる声たち。そして今、……そう、まさに今だったの。僕もその輪の中に存在している。皆に囲まれ、僕という存在に触れているから。


 ……歓喜かな? 込み上がってきて。


「おはよっ、皆」と、僕も御挨拶から。


「何泣いてんのよ、千佳ちか」と、美千留みちるがいて、「こういう時は、笑うものよ」と、せつもいる。この二人……だけじゃないの。「よお、来たぞ、千佳」と、太郎たろう君も声を掛けて、僕は「エヘッ」と、笑顔になれたの。そこへ、「やっぱ、千佳ちゃんは笑顔が一番だね」


 って、一気に注目を浴びた。……その女の子。


 僕と梨花りかしか知らない女の子なので、摂が早速「あんた誰?」と、訊く始末。そして僕や梨花が紹介する前に、その女の子は、自らを自己紹介した。この正門のど真ん中で。



 ――りん


 結城ゆうき凛。と、声も高らかに名乗った。


 桜舞う、その風景。長い髪を後ろで束ねて、身長はやや小柄……といっても、摂と同じくらいで、特徴なのは目がパッチリ。背中には青いリュックに薙刀らしき形。銀色の杖で……僕と梨花だけが知っている、凛ちゃんの右脚。膝から下が義足だったの。


 あの時、知った。


 令和四年四月四日。四のゾロ目の日。凛ちゃんが何らかのアルバイト? で、招き猫の着ぐるみを着て、自らを猫と扮し、猫の手を借りるというKACのお題のために、僕の代わりにガラポンを回して、一等賞を当ててスーパー銭湯へ行った日のことなの。


 僕が、……凛ちゃんの脚のことを気にかけると、


「ダメだよ、そんな顔しちゃ。千佳ちゃんが気にすることじゃないから、凛はね、千佳ちゃんには、絶対エンジョイしてほしいんだから」……それが、約束となったから。



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