第九十七章 令和四年の四月は、君が描く想いから。

第六八六回 そして迎える、四月の八日。


 ――辿り着けば、そこは桜並木の道。満開な笑顔が弾んでいる場所なの。



 僕も、笑顔になれた。


 学園での入学式。高等部での入学式。こんな気持ちになれたのは、……思えば小学生の入学式。ランドセルを背負って……その日と匹敵するほどに、弾む心……


 お家を出るのは、早朝の青い風。


 舞い散る桜の花、薄紅色を演出。時折見かける車引きの車夫しゃふ。それはまだ、幻想の世界に身を置いている、夢現なお時間。作家の野口のぐちとしともすれ違う、歩む舗道に於いて。


 ……


 …………約束を交わした。三度となるウメチカ戦で、また会おうと。


 そこで目覚める。パチクリと、自分のお部屋で。ベッドの上で、まだパジャマ姿。パタパタと踊る白いカーテン。起動したままのゲーム機の画面。それは昨夜の対戦相手。



 しかし、ここからは入学式。


 僕は起きる、朝の日差しを浴びながら。そしてルーティンへと講じる。着替えるものはジャージの上下。その色は……深緑。緑の中を走るバッタを思わせる色。ライダー並みに速いランナーを演じるために。僕のルーティーンは、早朝のジョギングから始まる。


 入学式も関係なく走っている。登校する前に予め感じる風の、少しばかりの肌寒さと風の香り……何よりも、いつもの現実の世界にいる、その感じを、五感で覚えながら。


 そして横には……


 等身大の鏡が……と、思える程に、ソックリな子が走っている。


 靡くボブの髪と、パッチリとした目が僕を見ている。僕が僕を見ているという不思議な感覚を。声も、声さえも。帰ったら、シャワーの中での、その裸体に至るも……「どうしたの?」と、梨花りかが訊くから「あっ、ええっと……何でもないの」と、僕は答える。


 実は初めてのことだったから。梨花と一緒に入学式を迎えるのは、今日が初めて。



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