第六八五回 ポジティブなこの先。


 ――きっと、そう思えるから。



「反省なんか、しなくていい。ネガティブな思考なんてもう必要ないから……と、いうことで、お帰り、オトン。じゃあ、よろしく頼むよ、これからは」


 と、太郎たろう君は、軽快とも思えるような趣で答えたの。さっきまでの重々しかった空気は一瞬にして……そう、ポジティブな声と共に掻き消されたの。嘘のように……


 今は四月……


 嘘から始まる季節だけれど、目の当たりの出来事は嘘も本当もなく、紛れもない真実だから、その境界線はなく、あるがまま。嘘と本当が、もしかしたら合体したのかも?


 ……それでも、それが、


「太郎、いいのか? そんな簡単で?」


「諄いよ、男に二言はなし。……やっぱりオトンには敵わないや、オカンのこと。オカンを守れる男になると決めていても、まあ、このざまだ。オカンのこと、頼むよ……」


「そうか……

 ありがとうな、太郎には太郎にしか守れない子がいることだし。これからは、その子を守るために男を磨くんだ。将来は、僕たちの娘になる子だしな」



 ――ビックリした。なので、


千佳ちか、顔真っ赤だよ」と、梨花りかは言う、皆の前で堂々と。「ちょ、梨花、何言うの?」と動揺も動揺で、パパも千夏ちかさんも南條なんじょうさんも皆してクスクス笑っているの。

 そして千夏さんは、特に大きな病状もなく回復に向かっているそうだ。一週間後には退院できると、医師は威風も堂々と僕らに告げた。その帰り道は……


「千佳、それに梨花お姉も皆、一緒に帰らないのか?」


「太郎君はお父さんと帰るんだよ。僕にはできないから、男同士の語らいは。じゃあ、そういうことで。今度は高等部の入学式で、また会おうね、学園で」と、手を振った。



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