第六八四回 名乗るは、南條博士。


 ――ある意味、博士ともいえる人。ウメチカ戦の℮スボーツのソフトを創った人。



 そして……


 太郎たろう君のパパだった人。なぜ離婚したのかは、そこは大人の事情。僕が知り得るお話ではなかったの。太郎君もまた然りだけれど、ある種のすれ違いがあったようだ。


 それを踏まえての、お話が続いていた……


「太郎も高校生になる。大事な思春期を僕らの我儘で……いや、君は頑張り過ぎて、僕の我儘で。僕は、この子の父親に、またなれるのかな? なれるのなら、もう離れはしないよ。もう一度、僕と結婚してくれますか? ……あっ、返事はまたでいいから」


 と、突然の言葉に、


 その突然の登場にも驚くばかりで、僕も太郎君も、それだではなく梨花りかもパパも、ただ立ち尽くして……どのように反応したらよいのか、迷いに迷って困りに困って。


 そして南條なんじょうさんが、ササッと去ろうとした時……


 ギュッと掴む。千夏ちかさんは手を伸ばし……南條さんのジャケットの裾を掴む。


「――待って。

 太郎のお父さんに、もう一度お願いします。千佳ちかちゃんという可愛いガールフレンドもできて、太郎にとって大事な時期なの。……私だけじゃダメなの、お願い……」


 初めて見る、千夏さんの涙……


 僕もギュッと締め付けられ……涙が込み上げてきた。そして思わず、太郎君の手を握っていた。僕を見る太郎君の目にも、涙が光っていたの。梨花とパパは見守るばかり。


 すると、南條さんは尋ねる……


「太郎、すまなかった。

 こんな身勝手な大人を、また父として認めてくれ……とは言わない。でも、お母さんを助けたいんだ。大いに反省した上で……罪滅ぼしをさせてくれないか。頼む……」


 と、太郎君は深く息を吐く。まるでこれまでの時を振り返るように、深く……



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