第六八三回 春に向かう母と子を。


 ――青い世界。それは硝子が午前の光を受けて、印象を心に残す色。



 梨花りかはパパと、車で迎えに来た。運転しているのは、もちろんパパ。梨花はその横、所主席に座っている。僕と太郎たろう君は後部座席で二人並んで……心は先走りつつも病院へ。


 そして到着する、済生会病院。


 向かう……千夏ちかさんのいる病室へと。僕は、太郎君の表情から目が離せないまま辿り着いたの、梨花とパパも一緒に病室へと。静かにドアを開けた。そこは一人部屋で……



 チューブに繋がれ……点滴。ベッドに横たわる千夏さんは、

 意識もハッキリしている様子、しっかりと僕らを見るなり、


「太郎、何て顔してるんだい……」と、言うの。


「おかん、俺の……学費のことで」と、太郎君が更に顔を曇らせると、間髪入れずに「何言ってるの、あなたはそんなこと心配しなくていいの」


「……だってさあ」


「だってもないの、千佳ちかちゃんに心配かけるようじゃ、まだまだだって言ってるの」


 ……気丈な人。


 太郎君を女手一つで育てた人。少なくとも今の僕になら、わかるような気がした。お母さんも同じだったの。母子家庭の厳しさを……それでも子の前では気丈に振る舞う。


 子を持つお母さんは、とても強い人だ。


 僕も、僕もなれるかな?

 いつの日か、千夏さんみたいに強いお母さんに……


 そう思った時だ。


「もうそろそろいいんじゃないのか?」と、声が聞こえた。男性の声。太郎君は勿論、パパでもなく、それ以外の人物。今目の当たりに現れている。初対面ではなく第一回の『ウメチカ戦』でお世話になった人で……その名字は南條なんじょう。太郎君の名字は旧姓だから。


「お互い意地を張るのはやめて、太郎のためにやり直してみないか」と、言いつつ。



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