第六八二回 ……迎えた日曜の日。


 ――その日は四月三日。僕は、太郎たろう君のお家にお邪魔していた。



 太郎君は遠い目をして、揺れている白いカーテンのその向こう、またその向こうを。その視線の先は何処へ? 夜を走る……夜更けと夜明けをも彷徨う、脳内を過る思考も。


 きっと、僕も同じだ……


 何も手つかずのまま、時間だけが過ぎゆく。青く凍り付いた時間の流れ……だけどそれに負けじと抗うホットな心は、正義にも似た勇気。立つ台所、僕は作る、晩御飯を。生きるために作るの、君と一緒に。泣いたって、女の子は強いから。君のためならば……


 とはいっても、やけに眩い陽射し……


 カーテンの隙間からでも、さっきまでの雨が反射板の役割を担って目に染みる。


千佳ちか、少しは寝ろよ」

 と、言われる程、僕は眠りを忘れていた。でも、それを言うなら、


「太郎君もだよ。一睡もしてないじゃない。それに御飯も。……お母さんの意識が回復して、太郎君が元気じゃないと、お母さんが元気になれないから、僕が元気にしてあげるんだから、太郎君のこと。君を本気で愛してる女の子の底力見せてあげるんだから」


 自分でもすごいこと言っている……


 とは思うのだけれど、それが僕の気持ち。千佳特製のスタミナメニューだから。


「千佳、強いな……

 ありがとな、俺も負けないから。弱い心に……」


 じわっと涙が滲んだ。でも仕上がるの、夜も明け正式なる朝を迎えたけれども、晩御飯が。千佳特製のスタミナ料理が。そして食す、テーブル囲んで太郎君と向かい合わせでガツガツと、生への執着。お母さん……千夏ちかさんも闘っているの、生きるため、太郎君とまた会うために。僕は祈る、ポジティブな一念を貫くための祈り。自分に負けないため、太郎君を守るため。――そしてスマホがエメラルドに光って、着信を告げるから。その相手は梨花りか。今から迎えに行くと。千夏さんの意識が回復したと、そう告げたのだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る